自分以外にも人見知りの総支配人がいた

【ホテル総支配人のブログ 第32話】

ホテルの総支配人は、ホテルの「顔」である。私のイメージでは、総支配人は社交性があり、コミュニケーション能力が高く、包容力があり、そして洗練された存在である。そのGMのキャリアについて考えてみると、ホテルのことが好きだからこそ、総支配人という高い地位にまで上り詰めることが出来たのだろう。これが、私が描くGM像であった。

そのため、私のように社交性が低く、内向的なGMは稀なケースだと自分では思っていた。私はかなりの人見知りであり、出来れば人とはコミュニケーションを取りたくないと考えている人間なのだが、総支配人という役職柄、多くの方とコミュニケーションを取りながら仕事をしている。それが出来ないという訳ではなく、出来ることならやりたくないことなのだ。また、ホテルで働くことは嫌いではないが、所謂「天職」と感じたことは、これまで一度たりともない。私は、自分が描くGM像とは真逆の人間であり、似たような性格を持つGMは他にはいないだろうと思っていた。

ところが、私以外にも同じように考えている総支配人が身近にいることが分かった。先日、たまたまその総支配人と食事をする機会があったのだが、その時に多くの共通点を見つけてしまったのである。その方曰く、「ホテルの仕事があまり好きではない」「出来れば人と話したくないと思っている」とのことであった。私は、自分と似たような考え方を持つ総支配人がいること自体に驚いたのだが、その一方で何故か安心した自分もいた。自分と似たように考えるGMが世の中にいるのだと思うと、なぜか「自分のような人間は一人だけではなかった」と、ホッとしたのである。

しかもそのホテルは、地域では成功しているモデルケースと考えられているようなホテルであり、長年の間、安定経営で成長を続けている優良ホテルなのである。

なぜ人嫌いのGMがホテルを運営しているのに、ホテル自体は非常に素晴らしいものとなるのだろうか。とても不思議であるが、恐らくGMの性格や本性というのは実は成功要因ではなく、それよりも部下のフォローアップやオーナーとの関係構築など、ホテル運営の「ポイント」をしっかりと押さえることの方がよっぽど重要なのだろう。

生粋のホテルマン上がりの人間が素晴らしいホテル経営を出来るとは限らず、この方や私自身のように、ちょっと変わり者の人間が運営するホテルも成功し得るというのは、何とも不思議なものである。優れた野球選手が、優れた監督になる訳ではないから、このようなことがあっても決して不思議ではないのかもしれない。