今の日本でプロフェッショナルは育つのか?

【ホテル総支配人のブログ 第37話】

「今の日本で、プロフェッショナルな職業人は育つのか?」

私がホテル業界で働く中で、いつも疑問に思うことである。まずは、我々を取り巻く労働環境が、昔とは大きく異なっている。日本では終身雇用がほぼなくなり、会社では年功序列も存在しない。人材は流動化し、一つの企業に勤め上げる人は稀な時代になった。若者も一つの仕事に固執せず、辞めたければいつでも仕事を辞められる。企業はいつも人出不足で、社員を「お客様扱い」しなければならない。若い社員は、会社から何でも「与えられる」ことを期待し、会社に価値を提供して貢献するという視点ではない。職業倫理観を醸成するには、ある程度まとまった時間が必要であり、ある職業に長い間従事しなければならないが、そのように根気強く仕事をする人も少なくなっている。仕事は簡単に替えがきくからだ。運良く長く務まったとしても、若い人が迷っている時に適切なアドバイスを授けて導いてあげられるような上司もいない。ハラスメントへのジャッジメントが厳しく、上司は部下に対して下手に厳しい教育はできない。このような惨状は、どこの会社も同じような状況なのではないだろうか。

このような環境の中で、プロフェッショナルを育てる戦略はあるのだろうか。この点に関して、私なりの私見を述べてみる。今の日本でプロフェッショナルになることを目指すには、まずは自分が「プロフェッショナルを目指す」という覚悟が必要だと思う。その意志がある人だけを育てていけば良い。しかし、人間は弱いので、強い意志だけでは決して上手くいかないだろう。

では次にどうするのか。私の考えでは、とにかく「海外に行かせる」ことだ。そうすれば、日本の常識は通用しないから、その環境で強くならなければ生きていけない。そこで、自分がいかに恵まれた環境で育って来たのか、あるいは自分の甘さにも気付くことが出来るだろう。海外に飛び出すことで、日本の「異常さ」に気付くかもしれない。そのような厳しい環境に自分を置けるような人間でなければ、プロフェッショナルにはなり得ないのではないだろうか。

あとは、人材の流動化を前提として、少なくとも自社で働いている期間は真剣に仕事を社員に教えることだ。子供を育てるような気持ちで、愛情を持って従業員を教育し続けることが大事なのではないか。たとえその人材が自社に残らなかったとしても、別の会社で花開けば良いではないか。そのくらいの大らかな気持ちで、日本人全員が自社の従業員に接することが出来れば、長期的には国全体としてプロフェッショナルな人材を育てられると思う。

私は、何でもかんでも欧米的な考え方が優れている訳ではないと思っている人間である。日本人には「和」や「協調」の心がまだ残っているはずなので、それらを活かした日本流のプロフェッショナルの育て方があるはずだ。それを真剣に考え、真面目に実践する仲間が増えることを願っている。