最終出勤日の前日に

『ホテル総支配人のブログ 第36話】

「明日は最終出勤日だ」

最終出勤日前日の率直な気持ちをここに記しておく。自分が今のホテルで働き始めてから、約8年の月日が経った。その間にホテルのブランドが三度も変わり、スタッフとしてとても大変な時代を過ごしてきたように思う。

ホテルを人に例えて考えてみると、今のホテルは10歳の小学生である。そのホテルが生まれてから数年の間に、まずは親であるオーナーが何度か変わり、そして育ての親とも言えるホテルオペレーターも数度変わった。子供であるホテルとしては、不遇な幼少期を過ごしており、その境遇は今もさほど変わっていない。肉体的にも精神的にも、決して健康に成長してきたとは言えない状態である。それは本当は親の責任なのだが、今それを言っても仕方がないし、言ったところで何も変わらない。子供としては、今ある環境で精一杯生きるしかないのである。

自分がGMになってからは、とにかく組織を安定化させるために奔走して来た。まずは従業員の勤続年数を伸ばすための施策を打ち、社内のお客様である彼らの満足度を高めようとしてきた。次に営業面では、小さな活動を繰り返して来たし、ホテルに迎え入れるお客様にはリピーターになって貰えるようにサービスを提供して来た。その甲斐もあったか、少しずつホテルは正しい方向に進み始めた。建物も少しずつ古くなって来たけど、今までよりも大切に扱い、多くのメンテナンスも進めて来た。

コロナ禍でのホテル運営ということもあり、今でも経営状態は良くないが、それでも継続的な成長の道筋は描けたと思う。ここまで来れば、次にどんなGMがホテルを運営しても大丈夫だ。

これまでホテルで働く中で、嫌なことも沢山あった。でもそれが嘘であるかのように、今は何故かとても幸せで落ち着いた気分である。過去を美化できるほどの時間は経っていないのに、この充実した気持ちはどこから来るのだろうと不思議になる。

大好きな子供(ホテル)と一緒に過ごせなくなることは寂しいが、子供はいつまでも子供のままではないはずだ。何とかやっていけると思う。今度は遠くからそのホテルを見守ることにしようと思う。