リファレンスチェック(Reference check)を忘れずに

【ホテル総支配人のブログ 第54話】

「スタッフ採用の際には、必ずリファレンスチェック(Reference check)を行うこと」

リファレンスチェック(Reference check)は、日本語では経歴照会や身元照会と呼ばれているようであるが、これがスタッフ採用の際には非常に重要である。ホテル業界では、中途採用が非常に多いため、応募者の以前の勤務先へのアプローチが非常にしやすい。しかも、以前の勤務先に連絡を取れば、意外と丁寧にその人物の評価を頂けることがほとんどである。料理などと同じで、この一手間が大きな違いを生むのである。

応募者にとって、面接はいくらでも取り繕えるし、準備も万端に出来るので、評価基準としては全体の半分くらいで良いと私は思っている。それと同様に重視すべきなのがリファレンスチェックであり、これによって応募者の勤務態度や問題点を事前に把握しておいた方が良い。そうすれば、将来自社で起こるかもしれない問題を事前に把握することが出来るし、そもそもその応募者を採用をしないという判断だって可能になる。第三者からの評価は、やはり信頼できる情報が多いし、「また機会があれば、このスタッフを雇いたいか?」という質問をすれば、前職の企業側の素直なフィードバックが返ってくる。

私も採用面接を重ねる中で、リファレンスチェックの重要性に気付き始めた。もっと早く気付くことが出来れば良かったが、リファレンスチェックを怠った結果として、パフォーマンスの低い社員を雇用してしまうこともあった。私の勉強代は高くついたが、それでも自分が雇い入れた以上は、その人とも力を合わせて頑張るしかない。いずれにせよ、皆さんも私と同じ失敗を未然に防げるよう、リファレンスチェックの重要性を頭の片隅に置いておいて頂きたい。

ホテルにおける人材獲得方法

【ホテル総支配人ブログ 第53話】

「人材の獲得方法に答えはない」

私はこれまで、ホテルの責任者として数多くのスタッフを雇用してきた。その経験から言えるのは、信頼の出来る唯一の人材調達ソースというものは存在せず、色々なチャネルを組み合わせて人材採用を進めるしか方法はないということである。

自分がこれまで試してきたのは、民間の人材派遣会社、人材紹介、ハローワーク、ホテル業界専門のオンライン求人サイト、知人からの紹介、新卒採用、大学の就職課、SNSグループの活用などであり、その他にもホテルに直接応募してきた方の採用もある。各チャネルによって、人材に甲乙があるという訳でもなく、特におすすめの人材採用方法がある訳でもない。

ただ一つ、試す価値のある人材採用方法があるとすれば、それは大学の就職課以外の非公式チャネルを活用することだ。通常の採用活動は、大学の就職課を通して求人情報を学内で紹介して頂く方法が一般的かと思うが、私は大学の学部長、もしくは学科長経由で人材を見つけるということも並行して行なってきた。大学によっては、就職課を通すようにと言われてしまうが、この非公式のチャネルを使うメリットとして、学部もしくは学科内の教授陣の会合の場などの場で、この求人情報を共有して頂ける可能性が高く、各ゼミ生を持つ教授から就職がまだ決まっていない学生を紹介して頂けることだ。私はこの方法で、新卒採用やインターンの採用をしてきた。この方法を取るには、学部長や学科長とのパイプを構築しなければならないが、一度それが出来上がってしまうと、非常に強力な人材紹介ツールとなる。もし採用に困っている採用担当者の方がいらっしゃれば、ターゲットとする大学にこのように接触してみてはいかがだろうか。

 

ホテルのカラー

【ホテル総支配人のブログ 第52話】

「ホテルのカラーは総支配人によって変わる」

今回はホテルの雰囲気、ホテルのカラーは総支配人によって変わるということについて触れてみたいと思う。総支配人がフロントやハウスキーピングなどの宿泊部門出身なのか、もしくはレストランスタッフやシェフ出身なのかによって、ホテル全体の雰囲気の作り方、スタッフの扱い方、プロモーションの方法、ゲストサービスへの考え方がそれぞれ異なる。細かいところだと、客室にあるタオルやグラスの置き方、お茶の種類など、細部にまで総支配人の意向が反映されている。

例えば自社を例にとると、私のキャリアの軸は宿泊予約部門なので、どちらかというとシステマチックなホテル運営、滞在中のゲストの満足度を重視したホテルになる。客室での滞在の品質を重視するが、お客様を驚かせるようなことはあまり得意ではなく、どちらかと言えば面白味のないホテルになりがちだ。もしこれが料飲部出身の総支配人であれば、もっとレストランでお客様を喜ばせるような思考や、サービスマインドを反映させたホテルの運営方法になるだろう。このように、総支配人がどのようなバックグラウンドを持っているかによって、ホテルの雰囲気は大きく変わるのである。

私はどちらかというと、温かみのある接客、スタッフの自主性を重んじたホテル運営、お客様を家族や友人のようにもてなすような雰囲気のホテルを目指してきた。総支配人の哲学によって、ホテルのカラーは変わる。皆さんもホテルに宿泊する時には、ブランドのコンセプトもそうだが、それと同じく総支配人のフィロソフィーも反映されていることを感じて頂ければ嬉しく思う。

 

スタッフの使い捨てを止めろ

【ホテル総支配人のブログ 第51話】

「業界としてもっと人を大切に出来ないものか?」

ホテル業界としてそう考えている訳ではないかもしれないが、結果としてホテル業界は人材を無駄に浪費していると思う。ホテルのスタッフは、看護師などと同様に、時間的に不規則な働き方をしている。しかしその割に給料が安く、さらにサービス業特有の接客のストレスもある。待遇が割に合わないということもあるのだと思うが、スタッフの離職率は高い。私の勤務するホテルでも、平均勤続年数が伸びているとはいえ、一年以上勤務して貰えれば良い方だ。

ちなみに、部署長である支配人以上になると、給料はそれなりに良くなる。これは支配人以上にとっては得かもしれないが、ホテル全体を俯瞰すると、やはり給料の配分はいびつである。ホテルの構造として、各部署長の待遇は良くして厚遇するが、第一線で働くスタッフは安月給でこき使うことを前提に成り立っているようにさえ見える。

スタッフの替えがきく時代ならそれでも良かったのかもしれないが、今はそんなことを言ってられるような余裕のある時代ではない。どこのホテルも慢性的な人手不足で、人材の確保に躍起になっているような状況だ。支配人も必要だが、それよりも必要なのは、現場で汗水流して働くスタッフの方なのではないだろうか。

この状況を改善する方法は二つしかない。一つ目は、少数精鋭部隊で各人の給与を高く設定すること。そして二つ目は、給料は安くて不満かもしれないが、普通の人間が7割くらいの力で働けるような職場環境にし、そしてスタッフを少し余分に雇うこと。前者は、スタッフの負担が大きくなるものの、お給料が高めになる選択肢である。後者は、お給料は安いが、無理なく働ける選択肢である。どちらの選択肢が良いかはホテルの判断によるが、いずれかに振らなければ、今の時代にはスタッフは定着しないだろう。

ホテルに足りない人材とは?

【ホテル総支配人のブログ 第50話】

「日本のホテル業界には、ビジネス志向の人材が少な過ぎる」

接客やサービスを学びたいという理由で、ホテル業界を志望する方は多い。それはそれで結構なことだが、サービスを追求するだけでは、今のホテル業界では生き残れない。そこから更なる進歩がなければ、ただのスペシャリストのサービス馬鹿が出来上がるだけである。結局どこかのタイミングで、ホテルをビジネスとして捉える視点が必要になる。本来マネジメントとはそういうものだと思うが、そこまでのレベルに達していないマネージャーが多いように思う。ホテルのマネージャーは、各部門(もしくは事業)と人の両方をマネジメントしなければならない立場にあり、そのポジションを担える人材を育てることが、ホテル業界全体としての課題のように思える。事業のマネジメントも人のマネジメントも、決して簡単なものではないし、ポジションが上がっても楽になるものではない。私自身も上手く出来ているとは言えないが、日々学びながらやっている。日本のホテルの現場では、ホテルをビジネスとして捉える人間が圧倒的に少ないので、その点を少しでも解消出来るよう、業界全体として努力しなければならない。

何も難しく考える必要はないし、マネジメントに秘技がある訳でもない。私が一番重要だと思うのは、「売り上げを大きくし、経費を少なくして、利益を多くする」というシンプルな発想だ。このくらい大雑把な考え方で良い。しかもこれは、自分の家計を考えるのと同じ要領である。自分が毎月会社から頂いた給料をやりくりし、出来るだけ賢く生活費を使って、そして余ったお金を貯金に回す。その考え方を仕事に当てはまるだけで十分である。一般的な人は、お給料を急に多くすることは難しいかもしれないが、事業ではそれが可能である。その方程式だけ理解すれば、ホテル事業のマネジメントは難しいものではないし、もっと若いうちから挑戦する人材が増えても良いポジションだと思う。何も支配人というポジションは、経験豊富な人だけがやれるポジションではない。自分も若いうちからやってきたからこそ、自信を持って言える。経験不足の人間であっても、やる気と正しい知識があれば、十分に出来るポジションだということを強調したい。

現場で考えて行動する組織

【ホテル総支配人のブログ 第49話】

「現場で考えて行動する組織」

私のホテルは小さな組織であり、マネージャーがいつも現場に張り付いていられる訳ではない。そのため、現場のスタッフが問題に直面した時に、当事者がその場で解決策を考え、正しいと思われる選択肢の中から最善のアクションを取ることを奨励してきた。フロントスタッフがクレームを受け、サービスリカバリーの対応をしなければならない場合は、対応の結果を翌日に事後報告してくれれば良いと伝えることにしている。このようにして、各人のその場での対応を信頼してきたが、これまでのところ、スタッフが誤った対応をしたと感じたことはなかった。

私は、スタッフの誰かが「これはどうしたら良いですか?」とストレートに解決策を求めてきた時は、「逆にどうすれば良いと思う?」とそのまま質問を返すようにしている。そうすることで、自分で考える癖をつけてあげたいからだ。また、私からもスタッフによく相談をするようにしている。例えば、急にスタッフが出勤できなくなった場合などに、「私ならこういうふうにシフトを変更しようと思うけど、Aさんはどうすれば良いと思う?」とスタッフに質問をすると、私が考えていた以上に良い代替案を提案してくることがある。

このような対応が全てが上手くいく訳ではないが、一人一人が現場で考え、その都度ベストと思われる判断をさせることが、現場を強くするためには必要だと思う。

2025年までのホテルの生存戦略

【ホテル総支配人のブログ 第48話】

コロナが終息しても、ホテルの業績が一気に回復する訳ではない。この数年間で他業種に移ってしまった人材を呼び戻したり、人材を一から教育するのには数年の時間を要する。しかも、この人材不足はホテルだけの問題ではなく、例えば清掃会社や近隣の飲食店など、ホテルを取り巻く業者も同様の問題を抱えている。この状況を好転させるには、やはり長い時間がかかるだろう。

今後の数年間は、ホテルとしては高いパフォーマンスを目指すというよりも、まずはホテル自体の生存が最大の目的となり、そのための生存戦略が必要となる。その中で一番重要になると私が考えているのは、サプライヤーの確保である。これが出来ないホテルは、たとえ現在の売り上げが好調であり、キャッシュフローが潤沢であったとしても、必ず難しい局面を迎えることになる。そのため、清掃業者や仕入業者など、ホテルを運営するために必要不可欠な会社から愛想を尽かされないように、ホテル側が努力して関係を維持することがより一層大事になる。繰り返しになるが、ここで失敗するホテルは、たとえ有名ブランドのホテルであっても、足元を掬われて事業が失敗することになると思う。

あと数年間は、ホテルは何としても生き延びなければならない。とても苦しい時期は続くが、逆に考えるとこれはチャンスの時期でもである。この機会に、安売りマインドと価格競争から抜け出して、「価値あるものを高く売る」ホテルとして脱皮するための絶好の機会であると私は考える。