ホテルとは何か?

【ホテル総支配人のブログ 第47話】

「ホテルとは何か?」

今回は普段なかなか考えることのない質問に挑んでみる。あまりにもくだらな過ぎる質問に聞こえるかもしれないが、「ホテルとは何か?」を考えることで、ホテルというものを自分なりに再定義してみようと思う。

私は専門家でも何でもないが、自分なりにホテルを定義すると、「サービスとして、プライバシーの確保された寝る場所と寝具を提供する場所」という答えになる。それ以外のサービスはあくまでも付属品に過ぎず、お客様が代金の対価として得るものの本質は、単に「プライバシーの確保された寝る場所と寝具の提供」に過ぎない。

ホテルが「寝る場所の提供」という定義だけなのであれば、それは野外キャンプ場と同じになってしまう。また、ホテルの定義が「寝具の提供」だけなのであれば、それは友人の家と一緒になってしまう。「寝る場所と寝具」が提供されていても「プライバシーが確保」されていなければ、それは合宿所の大広間と同じになってしまう。このようなことから考えると、「プライバシーの確保された場所と寝具」を「サービス」として提供するのが「ホテル」の本質的な定義になると私は考える。

その一方で、顧客の側から見たホテルの存在意義とは何なのだろうか。その答えとして、例えば以下のような答えが想定される。

①誕生日や結婚記念日などを祝う場所。

②家族とのスキー旅行の際に拠点となる場所。

③好きな女性を落とす場所。

④出張先で一晩を過ごす場所。

上記のように、顧客の視点から見ると、多くの場合はホテルの滞在自体が目的なのではなく、ホテルは顧客が「何か」を達成するための手段として存在していることが分かる。つまり、「〇〇を達成するための宿泊場所」として、顧客にとっては「目的」ではなく「手段」としてホテルが存在していると見ることが出来る。

このように、サービスを提供する側が考えるホテルの定義と、サービスを利用する顧客側から見たホテルの存在意義や定義は異なる。ホテルで働く人間としては、このように自分なりにホテルの定義をし、その上で顧客へのサービスを構築するという視点が大切なのではないか。今回の考察はここまでとして、別の機会にこの点をさらに深掘りしてみたいと思う。

ホテルの成否を決めるもの

【ホテル総支配人のブログ 第46話】

今回は、数あるホテルの中で、成功するホテルと失敗するホテルを決定する要因は何なのかについて考察してみる。私自身の経験を元に考察してみると、大切な要素の一つ目として、まずはホテルオペレーターのオーナーからの独立性が挙げられる。つまり、ホテルオペレーターが、どの程度オーナーとの距離を保って意思決定が出来るのか、またオーナーからの無駄な干渉がない状態でホテルの運営を出来る体制になっているかどうかが、ホテルを成功させる上で非常に重要となる。この点に関しては、あくまでもオーナーとホテルオペレーターの本部が事前に双方で解決すべき問題であり、現場のトップである総支配人のレベルでは解決することの出来ないことである。しかしこの点は、ホテルの成功を左右するキーファクターであり、この点がクリアになっていないホテルは、いずれ失敗すると私は思う。また、もしこれから総支配人のポジションを検討している方がいらっしゃるのであれば、オファーを受ける前にぜひこの点を確認されることをおすすめする。

私のホテルは、ホテルのオーナーがオペレーション会社を持っており、そのオペレーション会社がホテルを運営している。これは一見、一体感のあるホテルマネジメントが出来る体制になっているように見えるかもしれないが、実際は真逆である。例えば、現場への細かな指示に関しても、オーナーとオペレーション会社の両方から異なる指示が来ることが多々ある。これでは、ホテルオペレーターの独立性が全く保たれず、二つの指示に挟まれる現場スタッフは疲弊してしまう。私もこの指示命令系統には非常に苦労することが多かったし、現場としても進むべき方向を見失ってしまうことが度々あった。

また、ホテルオペレーターの本社から指示を受けてホテルを運営する総支配人が、どの程度の裁量を持ってホテルを運営できるのかも、ホテルを成功させるために重要な要素の一つである。様々なステークホルダーから指示が来た場合、総支配人が総合的に状況を判断してベストな選択肢を取ることが出来る体制になっていなければ、ホテルを運営することは非常に難しい。その他にも、「総支配人は予算案に影響を与えられるか?」「そもそも予算は誰が決めるのか?」「総支配人に人事権はあるのか?」「総支配人は予算を執行する権限があるのか?」など、総支配人の裁量が担保されていなければ、そもそもホテルを成功させることは出来ない。

ホテルオーナーが必ずしもホテルマネジメントのプロではないこともあり、彼らのロジックと意思決定が100%通用する訳ではない。そのため、理想としてはオーナーがROIをチェックすることに留まり、ホテルオペレーターと総支配人は承認された予算の範囲内で自由にホテルを運営できる体制となっていることが、成功への第一のステップだと考えられる。

常に整理整頓を心がけよ

【ホテル総支配人のブログ 第45話】

「常に整理整頓を心がけよ」

テルマネジメントについてのブログを書き続けて改めて思うことは、ホテルマネジメントには特に難しい技術が必要なのではなく、いかに当たり前のことを徹底できるか、つまり「凡事徹底」をいかに追求出来るかが大切だということだ。お客様の扱い方、ホテルの建物としての扱い方、スタッフの扱い方、お金の扱い方など、一つ一つのことを大切に扱いながら日々の業務を遂行することが、成功の礎だといえる。そして、日々の通常業務を行いながら無駄を徹底的に排除し、少しでも効率的な作業方法がないかと工夫をしたり、新しい販売方法や顧客ターゲットへのアプローチを試したり、新たな人事評価制度を試したりと、試行錯誤を繰り返して学びながら組織として成長していく。「失敗をしている」ということは、「何か新しいことに挑戦している」ということだから、その姿勢を崩さないことが何よりも大切である。

今回はその中で、ホテル全体の整理整頓について考察する。特に対象となるのは、ホテルの消耗品を置いてある倉庫やリネン室、ゴミ置き場、そしてスタッフのオフィスなどであるが、このようなお客様の目に見えない場所の清掃状況を確認することで、ホテルの「健康状態」が分かる。だから、オフィスのキャビネットは常に整理し、オフィスは掃除機がけをして綺麗に保ち、壊れているオフィス用品(ラミネーターやペーパーカッターなど)はすぐに買い換えるようにする。このようなことは、小さなことではあるが、スタッフの働く際のストレスを減らすことになるので、出来る限り早く対応してあげなければならない。

また私は、所謂「デッドストック(不良在庫)」が大嫌いで、これをいつも吐き出すようにしている。売店での商品やワインなどがそうであるが、在庫を抱えるくらいなら、例えばお祝いでホテルに宿泊されるお客様へのサービスとして提供した方がよっぽど良い。そうすれば、ホテルとしては不良在庫が減るし、お客様にも喜ばれるから一石二鳥ではないか。私はホテルマネジメントはのプロではないが、このような視点で時間、お金、スペースを有効活用し、ホテル内を常に整理整頓することが大切であると思いながらホテルを運営している。

心の冷たいお客様

【ホテル総支配人のブログ 第44話】

「心の冷たいお客様」

今回は少しデリケートなトピックを扱ってみる。本当は「心の貧しいお客様」というタイトルにしようかと迷ったが、少しマイルドに「心の冷たいお客様」にしてみた。いずれにしても、ごく稀に「心の冷たいお客様」に出会うことがあるので、そのようなお客様についてブログで触れてみたいと思う。

当然のことではあるが、ホテルはさまざまなお客様をお迎えしている。私たちのホテルはスキーリゾートにあるため、冬期にホテルを利用されるお客様が多く、特に最近は海外からのお客様が急激に増えている。私はこれまで数多くのお客様に接してきたせいか、スタッフへの話し方やお客様同士の話を聞く中で、何となくではあるが「お客様の人生そのもの」を垣間見ることができると感じる時がある。

例えば家族での旅行であれば、お客様の国籍がどうであれ、やはりその家族から「お互いへの愛情」が感じられることが多い。子供を世話するお母さんや、ご高齢の両親を労わりながら家族旅行を楽しむ方など、とにかく側から見ているだけで、その家族の温かさがこちらまで伝わってくるものである。

しかし、稀にではあるが、接するとこちらまでが寂しくなってしまうようなお客様がいらっしゃることも事実である。あまり具体的には言えないが、例えばご滞在中に奥様を怪我させた(と思われる)旦那様や、ドラッグや性的な話ばかりしている友人同士など、出来ることならあまり触れたくないお客様も中にはいらっしゃる。

しかも、最近の傾向として、そのような問題を抱えるお客様は「日本人」であることが多い。お金があっても、人格やお金の使い方が追いついていない人というか、ステータスが高くてもどこか「陰」のある日本人が多いことに驚かされる。日本人は、みんな心を育てることを忘れてしまったのだろうかと考えさせられるようなことも多い。だから我々も、高いお金を払ってご宿泊される日本人のお客様を、内心ではとても警戒している。

海外のビジネスオーナーなどの桁外れのお客様もホテルでお迎えすることがあるが、そのようなお客様たちはスタッフへの接し方や、滞在の楽しみ方に「余裕」がある。しかし、当ホテルにご宿泊される日本人には、どこか無理をしているからなのか、それとも日本人の国民性なのか、佇まいから「余裕」を感じられないことが多い。

お金だけあっても、周りの人を大切にできない日本人、もしくはまともな人格とは言えない「心の貧しい」日本人が増えていることを、私は職業人の立場から非常に憂いている。

You are too kind(お前は優しすぎる)

【ホテル総支配人のブログ 第43話】

「You are too kind(お前は優しすぎる)」

この言葉は、私が何度か上司から言われた言葉だ。総支配人をしていく上で、時には本社の人間やホテル内のスタッフと「Confrontation(対決)」をしなければならないということだ。これを避けて、ホテルマネジメントは出来ないというアドバイスを、上司から何度も頂いた。このような強い姿勢は、自分としてはあまり得意ではないが、それでも時には必要な態度だと思う。

ホテル内で意思決定をする上で、利害関係者の意見が一致することはまずない。オーナーはROIと投資の回収を求めてくるし、本社は短期・中期・長期の全ての視点でホテルを成功させるために現場にプレッシャーをかけてくる。現場のスタッフは、リゾート地で働いていることもあり、気楽なイージーライフを送りながら沢山稼ごうと努力する。要するに、全員がそれぞれの立場から、好き勝手なことを言ってくる。皆さんも職場で同じような経験をしたことがあるかもしれないが、総支配人はその中で意思決定をして、組織を引っ張っていなかければならない。

自分としては、「対決」して自分の意見を押し通すよりも、いかに組織のみんなに説明をし、理解を得ながら意思決定をしていくというやり方の方が多い。しかし、外国人と働く上で「Confrontation(対決)」を遠慮なくしていくことが大切であることを、総支配人の職務を経験する中で大いに学ばせて頂いたと感じている。

長続きする従業員の特徴とは?

【ホテル総支配人のブログ 第42話】

「長く勤務する従業員の特徴とは?」

この問題は非常にデリケートなトピックであり、私の男性としての私見が多く含まれていることを予めお断りしておく。その上で、この問題に切り込んでみたいと思う。

「どういう人間の勤続年数が長くなるのか?」ということを考えることは、「どういう人間が簡単に辞めていくのか?」という問いと密接に関係している。まず、私たちのホテルですぐに辞めていく従業員のプロファイルは、「35-45歳の独身女性」である。この従業員プロファイルが、全ての企業に当てはまる訳ではないが、少なくとも自社にフィットしない人を事前に把握しておくことが大切であり、そうすることで従業員の平均勤続年数を伸ばすことが出来ると私は考える。引き続き自社を例にとり、上記のプロファイル女性の特徴を自分なりに分析してみる。

①これまで転職を何度か経験しており、仕事内容や給料など全ての側面において、会社を判断するものさしが確立している。

②独り身のため、転職しやすい。

③優秀な人間の場合は、すぐに引き抜かれる。

このプロファイルに属する女性は、自社にフィットせずにすぐ辞めていく「傾向」にあるので、出来るだけ採用を避けるようにしている。

次に、勤続年数が長くなる人間の特徴を挙げてみる。

①結婚をしていて、子供がいる人。

②退職間近であり、このまま「逃げ切れる」可能性が高い人。

③能力が高くなく、他に行く場所がない人。

④新卒の人。

⑤仕事を楽しんでいる人。

⑥会社への忠誠心、愛社精神が強い人。

⑦転職回数が少ない人。

⑧仕事に対する諦観を持っている人。

このような方たちは、比較的勤続年数が長くなりやすい。理由が何であれ、私にとっては長く勤務して下さる方は本当に有り難い存在であるので、能力の低い人も含めて組織を運営するように努力している。

もちろん、会社側にも問題がある場合があることを忘れてはならない。例えば、以下のようなスタッフの退職理由が考えられる。

①上司が嫌い、もしくは尊敬できない。

②給料が割に合わない。

③会社に希望がない。

④自分の将来に希望がない。

⑤自分の力では解決されない問題がある。

その他にも沢山の理由があるが、ここでは割愛する。とにかく、スタッフが定着しない理由をもっと深く理解しなければならないと思う。

協力会社と良い関係を構築しろ

【ホテル総支配人のブログ 第41話】

「協力会社と良好な関係を構築しろ」

これは当たり前のことなので、書く必要がないことなのかもしれないが、自分と同じく新人の総支配人の方もいらっしゃるかもしれないので、その方へのアドバイスの意味も込めてここに記しておく。いつもホテルに出入りしている業者さんとは、常に良い関係を築くよう努力をすること。さもなければ、長期的には優れたホテルを作ることは出来ない。

例えば、いつもお客様の送迎をお願いしているタクシー会社、客室の清掃をして下さる清掃会社、近隣でアウトドア・アクティビティーを提供するアウトドア会社、ホテルの中で別の商売をしているテナント、タオル類を提供して下さるリネン会社など、挙げ始めるとキリがないほどの協力会社がある。これらの現場の社員さんや、営業の方を大切に扱うこと。彼らを自分より下の「下請け」として見下すのではなく、出来る限り「パートナー」として接することだ大切だ。

協力会社で働く皆さんも人間であり、生活をかけて仕事をしている。その方たちには、決して横柄な態度で接してはいけない。自分がされて嫌な対応というのは、後になっても覚えているものであるし、いつかその方の力を借りなければならない時が来るかもしれない。実際に長く商売をしていると、そのような時は必ず来るし、自分も協力会社に助けられることが結構あった。だから、その方たちにはいつも丁寧に接し、困っていたら助けてあげるという気持ちを忘れないことが大事だ。例えばアクティビティー会社の方が、売り上げがなくて困っているのであれば、私たちのホテルのお客様をそちらに誘導出来るように頑張ってみる。タクシー会社が困っているのであれば、その会社を積極的に使ってあげるよう努力をする。私の考え方としては、自社が生き残るのはもちろん大事だが、それと同様に地域の企業同士の生態系全体が生き延びる道、地域全体として繁栄する道を探さなければ、トータルとして魅力的な地域にはならないと思う。